民法択一 物権 留置権 留置権の要件


・民法上の留置権の成立には、①目的物と牽連性のある債権の存在、②目的物の占有、が必要である。

・目的物の占有の要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りる!!=債権成立時に目的物を占有していなければ留置権を主張できないわけではない!!
+判例(H18.10.27)
(1) 民事執行法181条1項は、担保権の存在を同項所定の法定文書によって証すべき旨を規定するところ、民法上の留置権の成立には、〈1〉債権者が目的物に関して生じた債権を有していること(目的物と牽連性のある債権の存在)及び〈2〉債権者が目的物を占有していること(目的物の占有)が必要である。
留置権の成立要件のうち目的物の占有の要件については、債権者が目的物と牽連性のある債権を有していれば、当該債権の成立以後、その時期を問わず債権者が何らかの事情により当該目的物の占有を取得するに至った場合に、法律上当然に民法295条1項所定の留置権が成立するものであって、同要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りるものである。そして、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、執行官が登録自動車を占有している債権者から競売開始決定後速やかにその引渡しを受けることが予定されており、登録自動車の引渡しがされなければ、競売手続が取り消されることになるのであるから(民事執行法195条、民事執行規則176条2項、95条、97条、民事執行法120条参照)、債権者による目的物の占有という事実は、その後の競売手続の過程においておのずと明らかになるということができる。留置権の成立要件としての目的物の占有は、権利行使時に存在することが必要とされ、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、上記のとおり、競売開始決定後執行官に登録自動車を引き渡す時に債権者にその占有があることが必要なのであるから、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」としては、債権者による登録自動車の占有の事実が主要事実として確定判決中で認定されることが要求されるものではないと解すべきである。
したがって、登録自動車を目的とする民法上の留置権による競売においては、その被担保債権が当該登録自動車に関して生じたことが主要事実として認定されている確定判決であれば、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」に当たると解するのが相当である。

+++留置権者による形式競売
留置権の効力は主として、債権の弁済を受けるまで物を留置できるという効力です(民法295条1項)。目的物から生じる果実について以外(民法297条1項)、優先弁済権はありません。
しかしながらこれでは、債権の弁済が長期間得られなくても、たんに目的物を留置できるのみということにもなり、留置権者に負担となる場合もあります。
そこで、留置権者が留置の負担から解放されるための手段として、目的物を競売することが認められています(民執195条。これを形式競売といいます)。
ところで、形式競売により目的物が換価されると、換価金は留置権者に交付されますが、留置権者は所有者に対して換価金返還務を負うことになります。
しかしながら、所有者と債務者とが一致するときは、留置権者は、換価金返還務と自分が所有者に対して有している被担保債権と相殺することができます。その場合、事実上、優先弁済を受けることになります。(但し、形式競売に関して、他の債権者が配当要求をできるか否かについては議論があります)
これに対して、所有者と債務者が別個のときには、留置権者は、所有者に即時に換価金を返還せざるを得ません。すなわち、形式競売を行えば留置権を失うことになってしまいます。ヘーー

・留置権者は留置物について必要費を支出した場合、所有者に対してその償還を請求することができる!!
+(留置権者による費用の償還請求)
第299条
1項 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる
2項 留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

・留置権の必要費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使することも許される!!!!
+判例(S33.1.17)
同(ハ)について。
(イ)において述べたとおり、被上告人は管理契約終了前本件浴場建物に関し必要費の償還請求権を有し、契約終了後も右建物に対し留置権を有することは、原判決の確定するところである。そして、原判決は被上告人は右契約終了後その留置物について必要費、有益費を支出し、その有益費については、価格の増加が現存するものとなし、上告人に対しその償還請求権を有することを判示しているのであるから、この償還請求権もまた民法二九五条の所謂その物に関し生じた債権に外ならないものである。従つて契約終了前既に生じた費用償還請求権と共に、その弁済を受くるまでは、該浴場建物を留置し明渡を拒み得るものというべきである。しかして、所論の浴場経営が民法二九八条二項但書の物の保存に必要な使用の範囲を逸脱するものかどうかは、同条三項の留置権消滅の請求権を生ぜしめるか否かの問題となるに止まるのであるから、その消滅請求権を行使した事実のない本件においては、前段説示のとおり留置権の存続を認むるの外ないことは明らかである。

++(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・二重売買の買主が所有権移転登記を受けた買主から返還請求を受けた場合、売主の売買契約に基づく目的物引渡債務の不履行に基づく損害賠償請求権と目的物との間には、牽連性がなく、買主は目的物について留置権を行使することができない!!!
←本件の債権はその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その物に関し生じた債権とはいえないとして、牽連性を否定している!!!
+++基本書で追記を。

・確定的に不動産の所有権を取得した仮登記担保権者が、債務者に清算金を支払わないでその不動産を第三者に譲渡した場合。債務者は、清算金支払請求権を被担保債権として譲受人たる第三者に対してもその不動産につき留置権を行使することができる!!!!!!
+判例(58.3.31)
1 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、GとFとの間の本件合意は、代物弁済予約形式の担保の清算方法の合意としてその効力を否定すべき理由はないから、Gが右合意に基づき本件土地建物の所有権を確定的に取得したのちは、もはや上告人Aらは被担保債務の弁済によつて本件土地建物を取り戻すことはできなくなつたものというべきである。
したがつて、所論の弁済の提供等は、被上告人の本件土地建物についての所有権取得に影響を及ぼす理由とはなりえない。所論中、原判決が、被上告人において清算金支払義務の関係につきGと同一の地位にある旨判示していることをとらえて、右清算金が支払われるまでは右の取戻しをすることができることとなるべき理である旨をいう部分は、後記判示の点を措いても、原判決の趣旨を正解せず、原審の認定しない事実に基づくか、又は独自の見解に立つ主張というほかはない。なお、上告人らは、原審において、被上告人とFとの間において債権者の交替による更改契約が成立したことを前提として所論弁済の提供等を主張したものにすぎないところ、原審は右更改契約の締結の事実が認められない旨判断しており、右認定判断は原判決挙示の証拠関係によつて是認することができ、その過程に所論の違法はない。この点に関して弁済の提供等についての判断遺脱等をいう所論は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。
2 しかしながら、職権をもつて調査するのに、前記認定の事実によれば、Gは、Fとの間の本件合意に基づき本件土地建物につき確定的に所有権を取得して更に被上告人にこれを譲渡したのであるから、被上告人はこれによつて本件土地建物につき担保権の実行に伴う清算関係とは切り離された完全な所有権を取得したものというべきであり、たとい被上告人において、GのFに対する右清算金の支払が未了であることを知りながら本件土地建物を買い受けたものであつても、そのために右のような被上告人による所有権取得が妨げられ、清算金の支払義務と結びついた本件土地建物の所有者としてのGの法律上の地位をそのまま承継するにとどまるものと解さなければならない理由はないというべきである。そうすると、被上告人とGとの間で重畳的債務引受の合意がされるなどの特段の事情がない限り、上告人Aらは被上告人に対して清算金の支払請求権を有するものではないから、原審が、上告人AらはGに対するのと同様に被上告人に対しても清算金支払請求権を有するとし、これを前提として上告人Aらが被上告人から清算金の支払を受けるまで本件土地建物の明渡しを拒むことができるとした点には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきである。
もつとも、被上告人の上告人Aらに対する本件土地建物の明渡請求は、所有権に基づく物権的請求権によるものであるところ、上告人AらのGに対する清算金支払請求権は、Gによる本件土地建物の所有権の取得とともに同一の物である右土地建物に関する本件代物弁済予約から生じた債権であるから、民法二九五条の規定により、上告人Aらは、Gに対してはもとより、同人から本件土地建物を譲り受けた被上告人に対しても、Gから清算金の支払を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができる関係にあるといわなければならない(最高裁昭和三四年(オ)第一二二七号同三八年二月一九日第三小法廷判決・裁判集民事六四号四七三頁、同昭和四五年(オ)一〇五五号同四七年一一月一六日第一小法廷判決・民集二六巻九号一六一九頁参照)。
そして、被上告人又はGが清算金を支払うまで本件土地建物の明渡義務の履行を拒絶する旨の前記上告人Aらの主張は、単に同上告人らの本件土地明渡義務と右清算金支払義務とが同時履行関係にある旨の抗弁権を援用したにとどまらず、被上告人の本件土地建物明渡請求に対して、清算金支払請求権を被担保債権とする留置権が存在する旨の抗弁をも主張したものとみることができるから、本件においては上告人Aらの右留置権の抗弁を採用して引換給付の判決をすることができたわけである。しかし、この場合には、被上告人は上告人Aらに対して清算金支払義務を負つているわけではないから、被上告人による清算金の支払と引換えにではなく、Gから清算金の支払を受けるのと引換えに本件土地建物の明渡しを命ずべきものであり、したがつて、これと異なり、被上告人からの清算金の支払と引換えに本件土地建物の明渡しを命じた原判決には、結局、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであるが、原判決を右の趣旨に基づいて変更することは、上告人Aらに不利益をきたすことが明らかであるから、民訴法三九六条、三八五条により、この点に関する原判決を維持することとする。

ムズイネ・・・・・

++++前提知識・・・代物弁済予約と仮登記担保
代物弁済とは、借入金や買掛金が焦げ付いた場合にモノ(大抵は不動産)の所有権を債務者から債権者に移転することによって、借入金や買掛金などの債務の弁済をなすことをいいます。
債権の担保としてあらかじめ定めたモノを代物弁済契約に特定して、債権の回収が滞ったときにそのモノの所有権を移転することによって債務の弁済を受けるように考えられたのが「代物弁済予約」です。ヘーーー
不動産を代物弁済予約の目的物とする場合には、予約契約を締結した時点で、「代物弁済予約による所有権仮登記」を行います。この登記は、不動産登記簿の甲区欄に記載されます。不動産に対する代物弁済契約はこのように仮登記を行いますので「仮登記担保契約」と呼ばれることがあります。

仮登記担保法による保護
代物弁済契約によれば、本来、少ない債権の弁済のために高額の不動産の所有権の移転を受けることができます。例えば、1,500万円の債権の弁済に2,000万円の不動産の譲渡を受けるようなことができたわけです。いわば、差額の500万円は代物弁済契約による丸儲け部分(これを清算金という)です。
ところが、これではあまりに債務者の利益を害しますので、仮登記担保法では次のような規制をしています。すなわち、代物弁済予約に係る予約完結の意思表示に加えて、担保権者に2か月経過後における清算金の金額を通知すべきものとされました。予約完結の意思表示をして2か月後に清算金を支払って初めて、代物弁済が完結します。また、清算金は債務者に渡るのが原則ですが、後順位担保権者がいる場合には、後順位担保権者が差し押さえることができるものとされました。
このような規制があるので、担保権者はいわば丸儲け部分を手にすることができません。したがって、代物弁済予約は一部の金融業者を除いてあまり使われなくなっています。
なお、代物弁済予約の他にも、売買予約を原因として仮登記をする例もあります。この売買予約も、金銭債権の担保としてなされることがほとんどです。この場合にも、仮登記担保法の規制が働きます。
通常の事業者が行う債権保全策には、これらの手法を使うことは稀だと思いますが、これらの登記のある不動産には十分注意をする必要があります。

++++代物弁済予約のメリット
(1)決済が早い=抵当権による債権回収は、不動産の競売か任意売却により行いますが、大変時間がかかり、処分価値も低くなります。これに比べて、代物弁済予約では予約完結権を行使して所有権移転の本登記をすれば、不動産の所有権が移転するので決済が早く、処理が簡単。
(2)債権者は不動産を取得できる
(3)保全される債権の範囲が広い=抵当権では債権の利息・損害金は最後の2年分しか優先弁済を受けられず、根抵当権は極度の範囲が保全されるに過ぎませんが、代物弁済ではすべてについて優先弁済を受けられます。

・Aは、その所有する不動産を目的として、Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定したが、Bが当該不動産を担保目的以外で処分しないという義務に反して第三者Cに譲渡し、CがAに訴引き渡しを請求した。判例によれば、AはBに対する上記義務の不履行による損害賠償請求権を被担保債権としてCに対して当該不動産につき留置権を行使することはできない!!
←損害賠償請求権はBに対して有するものであり、所有権に基づく引渡請求をするCに対して有するものではない=牽連性がない!!!

・第1譲受人の売主に対する損害賠償請求権は、その物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その債権はその物に関して生じた債権とはいえない。

・借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことに基づくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、その借家人には費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置し得る権利は認められない!!!
+判例(S44.11.6)
上告代理人諌山博の上告理由第一点および第九点について。
借地上にある家屋の賃借人が借家契約のみにもとづきその敷地部分を直接または間接に適法に占有しうる権原は、もつぱら右家屋の所有者が借地の所有者との間に締結した借地契約にもとづきその借地を適法に占有しうる権原に依存しているのであるから、その借地契約が借地人の賃料不払を理由として有効に解除され、借地人が右借地を適法に占有しうる権原を喪失するに至つた場合には、右家屋の賃借人は、同人自身の家屋ないしその敷地部分の占有については何らの非難されるべき落度がなかつたとしても、その敷地部分を適法に占有しうる権原を当然に喪失し、右借地の所有者に対して、その家屋から退去してその敷地部分を明け渡すべき義務を負うに至るものといわざるをえない。以上と同旨の見解に立つて、被上告人の本訴請求を認容し、上告人に対して本件家屋部分からの退去およびその敷地たる本件土地の明渡を命じた原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。したがつてまた、その違法の存在を前提とするものと解される所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点および第三点について。
借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことにもとづくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、借地の賃貸借契約が有効に解除された後、その借地の所有者が借家人に対して右家屋からの退去およびその敷地部分の明渡を求めた場合においては、その借家人には右費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置しうる権利は認められない、との見解に立つて、上告人の所論の留置権にもとづく本件家屋部分からの退去拒絶の抗弁を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、したがつてまた、その違法の存在を前提とする所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、または、原判決の結論に影響のない問題について原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

・留置権は占有が不法行為によって始まった場合には成立しない(295条2項)。
+(留置権の内容)
第295条
1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない

・占有物についての有益費支出時に権原喪失について悪意・有過失であるような場合は、295条2項の類推適用により、有益費償還請求権を被担保債権とする留置権の成立を否定する!!
+判例(S51.6.17)
同第二点について
他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権をもつて、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが相当である。
蓋し、他人の物の売主は、その所有権移転債務が履行不能となつても、目的物の返還を買主に請求しうる関係になく、したがつて、買主が目的物の返還を拒絶することによつて損害賠償債務の履行を間接に強制するという関係は生じないため!!!!!!、右損害賠償債権について目的物の留置権を成立させるために必要な物と債権との牽連関係が当事者間に存在するとはいえないからである。原審の判断は、その結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について
国が自作農創設特別措置法に基づき、農地として買収したうえ売り渡した土地を、被売渡人から買い受けその引渡を受けた者が、土地の被買収者から右買収・売渡処分の無効を主張され所有権に基づく土地返還訴訟を提起されたのち、右土地につき有益費を支出したとしても、その後右買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により当初に遡つて無効とされ、かつ、買主が有益費を支出した当時右買収・売渡処分の無効に帰するかもしれないことを疑わなかつたことに過失がある場合には、買主は、民法二九五条二項の類推適用により、右有益費償還請求権に基づき土地の留置権を主張することはできないと解するのが相当である。
原審の適法に確定したところによれば、(一)本件土地は、被上告人の所有地であつたが、昭和二三年四月二八日、大阪市城東区農地委員会は、右土地が自作農創設特別措置法三条一項一号に該当する農地であるとして買収時期を同年七月二日とする買収計画を樹立し、公告、縦覧の手続を経たうえ、国がこれを被上告人から買収し、同農地委員会の樹立した売渡計画に従つて、昭和二六年七月一日上告人Aに対し、本件土地を売り渡したこと、(二)右買収計画は、本件土地が自作農創設特別措置法五条五号に該当する買収除外地であるにもかかわらず、これを看過した点において違法なものであつたので、被上告人は、昭和二三年七月右買収計画取消訴訟を提起し、被上告人の請求は、一審で棄却されたが、二審で認容され、その買収計画取消判決は、昭和四〇年一一月五日上告棄却判決により確定したこと、(三)上告人Bは、昭和三四年一一月一九日上告人Aから本件土地を買い受けてその引渡をも受けたが、昭和三五年一〇月被上告人から買収及び売渡は無効であるとして所有権に基づく本件土地明渡請求訴訟を提起され、その訴状は同月二五日上告人Bに送達されたこと、(四)上告人Bは、右明渡訴訟提起後の昭和三六、七年ころ、本件土地の地盛工事に一七万円、下水工事に七万円、水道引込工事に六万円の有益費を支出したこと、がそれぞれ認められるというのである。
土地占有者が所有者から所有権に基づく土地返還請求訴訟を提起され、結局その占有権原を立証できなかつたときは、特段の事情のない限り、土地占有が権原に基づかないこと又は権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては過失があると推認するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係のもとにおいて、右特段の事情があるとは未だ認められない。したがつて、右事実関係のもとにおいて、上告人Bが、所論の有益費を支出した当時、本件土地の占有が権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては、同上告人に過失があるとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。そうすると、右のような状況のもとで上告人Bが本件土地につき支出した所論の有益費償還請求権に基づき、本件土地について留置権を主張することが許されないことは、前判示に照らし、明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は正当である。その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

+悪意、有過失について・・・